神鳥の卵 番外編2:正月


初日の出も無事拝み(テレビ画面で)、朝の鍛錬も終えた(室内で)スザクが身支度を整えていると、宣言通り朝一で専用機に乗りC.C.が戻ってきた

「おい枢木スザク。それは仮装か?」

ただいまもなく、開口一番そう言ったC.C.を無視し、スザクは姿見の前で最終チェックをした。

「よし、これで完璧だ」
「どこがだこの変質者が!」

私を無視するなとC.C.はペしりとスザクの頭をひっぱたいた。

「痛いな。・・・なんだ来てたのC.C.」

不愉快そうな低い声でスザクはじろりとC.C.を睨んだ。

「なんだ、気づいていなかったのか?そんなに注意力散漫では、ルルーシュを預けることなど出来ないな」

赤ん坊の世話を任せるに値しないと、C.C.は魔女の笑みで言った。

「君の存在は視界にも入れたくないだけだよ。それに、ルルーシュのことで注意力が散漫になるなんてありえないよ」

ラウンズの頃のような冷たい視線を向けながら、ずれた帽子を直した。

「ほう?だといいがな。それで?そんな仮装をしてどうしたんだ?ああ、日本の正月は仮装大会の特番が組まれているから、それの真似か?」
「仮装じゃなく変装だよ。そんなことも解らないなんて、見た目は若いけどやっぱりおばあちゃんなんだね君は」
「尻の青いガキが、私を年寄り扱いする気か」
「君から見れば君の同類以外全員ガキだろ?」

かつて死神と呼ばれた男は冷たい殺気を身に纏い、不死の魔女を睨みつけた。

「面白い、この私に喧嘩を売るとはな」

身の程知らずの餓鬼が。と、魔女は裏切り属性の愚か者を睨みつけた。
一般人なら身をすくめてしまうほどの殺気が室内に満たされる。

「まあ、喧嘩するのはいいですけどねぇ、やるなら外でやってくれませんかぁ?陛下が起きちゃいますよ?」

C.C.と共にこのアジトにやってきたロイドは呆れたように呟いた。一緒に来たセシルは早々にルルーシュが眠ってる寝室に移動している。だから万が一起きてもどうにかするだろうが、この二人の洒落にならない殺気は赤ん坊のルルーシュに悪影響を及ぼしかねない。
いつのまにやらルルーシュに忠誠を誓っていたロイドは、人間にはあまり興味はないくせに赤ん坊のルルーシュの成長を何かと気にかけていた。
それに、もしここにジェレミアがいたら「陛下の御下でなんと無礼なことを!」とでもいいながら二人に鉄拳が飛んでいることだろう。そしてあの熱い男の説教を聞かされているに違いない。
そこまで考え二人は口をつぐんだ。
確かにこの空気をあのルルーシュに知られるのはどう考えても良くない。
落ち着いた声でC.C.は改めてスザクにたずねた。

「枢木スザク。その格好は何なんだ?変装というよりは仮そ・・・いや、おかしな格好だぞ」
「別におかしくないだろ?」
「いやおかしい。かなりおかしいぞ」

スザクをいじるためではなく、本心からなんでそんな格好しているんだ?という目で見られたので、スザクは改めて姿見を見た。
至って普通な私服にコート。
マフラーを口元を隠すように巻いて、念のため白いマスクも。
いつものサングラスに帽子。
茶色のくせ毛は危険だから、日本人に多い黒髪で肩までの長さのかつら。
うん完璧だと、スザクは改めて自分の変装に満足気に頷いた。
それを見て、C.C.は、うわぁ、こいつ全然わかってない。という顔でスザクを見た。

「どこからどうみても変質者だろうその格好は」
「これから強盗にでも行きそうな格好だよねぇ」

あはぁ~と楽しげにロイドまで言うので、そんなに酷いのかとようやくスザクは気づいてくれた。C.C.の言葉にはとにかく反抗するが、ロイドたちの言葉は素直に聞き入れるのがスザクだ。それもC.C.には腹立たしい。ルルーシュに言わせれば二人の反応は「まるで反抗期の子供」なのだが、スザクとC.C.の耳に入れないようにしている。

「まあ、全体的なセンスも壊滅的だが、最大の問題はそれだ。何なんだそれは」

C.C.が指差した場所。
そこには本来スザクの胸板がある場所なのだが、今は豊満な胸があった。
いまさら言うまでもないがスザクは男だ。
そして先日までこんなものはなかった。
だから100%偽乳だ。
スザクはその偽乳を持ち上げると、よく出来てるでしょと言ってきた。

「万が一のことも考えないと駄目だろ?だからこうして女装をね」
「男の格好に男の体型で乳を付けてどうするんだこのど阿呆が」

阿呆じゃなくて馬鹿だったかと、蔑んだ眼で睨みつけた。

「そこまで酷いかな・・・」

何がどうおかしいのかは全く解らないが、ロイドも同意するよう頷いているので、スザクは自信あったのにな。としょんぼりとうなだれた。

「服のセンスの無さはこの際置いといてだ、胸をつけるなら女物を着るべきだろう。むしろその格好で行くなら胸はなくせ。悪目立ちしすぎだ」
「センスが無い?君のセンスは何百年前のだよ。大体、あんな拘束着を愛用してた人に言われたくないね」
「なんだと!?その笑えるほど似合わないサングラスと、ダサダサな組み合わせの服を着るお前が言うか?」

再び険悪な状況になってきた所で、寝室の扉が開いた。
この騒ぎでルルーシュが起きたらしく、セシルの腕に抱かれたルルーシュは眠そうに眼をこすっていた。そして、C.C.とロイドには目もくれず、眼をパチクリさせながらスザクを見た。
C.C.じゃなく寝起きで自分を見たことにスザクのテンションは上がったが、C.C.は乾いた笑いをそんなスザクに送った。本気で理解ってないんだなと呆れ顔だ。数度目をこすり、再度スザクを見たルルーシュは「変質者がいるぞ!C.C.とロイドは危ないから下がれ!スザク!スザクはどこだ!」と言うように顔を百面相させたので、スザクはルルーシュにばれないほど完璧な変装ではあったが、変質者扱いされたことに激しく凹み、床に手をついてうなだれた。「チャンスだ!C.C.!ロイド!その変質者を抑えろ!スザクはどこに行ったんだ、こんな時に!あの馬鹿が!」と指示を飛ばすルルーシュに、スザクはますます凹んだ。




「初詣に行こうと思ったんだよ、ルルーシュを連れて」

変装を止めさせられ、半纏にトレーナーにジーンズという服装に戻ったスザクはうなだれながら言った。まさかあの見るからにザ★変質者な人物がスザクだと本気で理解ってなかったルルーシュは、落ち込んだスザクの頭をわしゃわしきゃと撫でた。
ちなみにルルーシュはソファーに座るC.C.の膝の上、スザクはC.C.のすぐ横でそのソファーに背を預けている形だ。こうやっていると父と母の喧嘩を仲裁する子供のようにしか見れないのだが、それを言うとスザクとC.C.が更に険悪になるので誰も言えなかった。

「初詣だと?」
「うん、神様にルルーシュが戻ってきました有難うございますってお礼をいって、ルルーシュが病気もせず、すくすくと大きくなりますようにってお参りしようかと思って。あとお守りも買わなきゃね」

安全祈願と無病息災は必ず買って、家内安全、交通安全、旅行安全もいるよね。厄除けも買わなきゃ。虫よけがないのは残念だけど仕方ないよね。

「待て、それを全部ルルーシュに持たせる気だったのか?」
「当たり前だろ?このルルーシュが"弱い"って言ったの君じゃないか。なら少しでもルルーシュが守られるようにお守りぐらい持たせなきゃ」

ちゃんと成長して、大きくなってもらわないと僕も困るし!

「・・・虫よけのお守りは本当に欲しくなるな。特に邪な思いを赤ん坊に向けている馬鹿に効くお守りがな・・・いや、その前に言っていいか枢木スザク」
「なに?文句あるの?」

君のいうバカって僕のことじゃないよね?

「文句というか、お前の気持ちはわからなくはない。ルルーシュの健やかな成長を願い、健康に過ごして欲しいという気持ちも同意しよう。だがな、よーく考えて見るんだ」
「何を?」
「祀られている形はどうあれ、神とは、アレなんだぞ」

アレ。
アレってなんだろうとスザクは眉を寄せ、ルルーシュは「あ・・・ああ、そうだったな、アレだったな」と、遠い目をした。

「忘れたのか?シャルルとマリアンヌと会ったあの場所を」

神とは集合無意識。
ルルーシュがギアスを、願いをかけたアレのこと。
あの時のことを思い出したのか、スザクは「あ・・・」と言った後、遠い目で天井を見上げていた。どうやら神社に行くきは失せたらしい。アレに願いを聞き入れてもらうには、ルルーシュのような覚悟と純粋な思い、そして何よりギアスが必要だ。

「それ以前に人で込み合う場所に、お前一人で乳児を連れて行くなど論外だがな」

それに、こんなに愛らしい赤子なのだ。誘拐されても困る。「俺もこんな朝早くに人混みになど行きたくはない」と、ルルーシュも同意した。これがナナリーのためにお守りを買いに行こう?とでも言えば、全く違う意見を言うだろうが、神があれな時点でご利益があるのか疑わしく、行くだけ無駄という空気が流れていた。





「って!ちょっとまって!!なにこれ!!」

日本でのゼロの公務から戻ってきたスザクはようやく隠れ家に戻り仮面を脱ぐと同時に叫んだ。

「何って見てわからないか?お守りだ」

C.C.の手には安全祈願や無病息災などのお守りがあり、ゼロの公務を一通り終え、スザクと交代した咲世子がそれらをルルーシュの半纏に縫い付けていた。

「先ほど咲世子達と一緒に買ってきたんだ。もちろん神社が空いている時間にな。ああ、ちゃんと礼も言って、ルルーシュの健康も祈ってきたぞ?もちろん、ルルーシュも連れてな」

ルルーシュは朝早くに行きたくないと言っただけで行くこと事態は拒否していなかったぞ?と魔女はニヤニヤと笑った。

「そうじゃなくて!なんで買いに行ってるんだよ!しかもルルーシュを連れて!?乳児連れて行くなとか言ったの誰だよ!」
「お前一人で、と私は言ったんだ。一人で行こうとしたお前とは違い、私はみんなと行った。変装も自然で完璧。ルルーシュの指示の下、すんなり全てを終えることが出来た」

神社の境内ではルルーシュを抱くC.C.を囲むように咲世子、ロイド、セシルが歩くことで安全を確保し、お参りも無事済ませ、ルルーシュはナナリーのお守りをものすごく悩みながら選び、それらは咲世子の手で既に輸送されていた。ルルーシュは人混みに疲れて今は夢のなかだ。

「そもそもあんな話が出たら、ルルーシュがナナリーのために参拝し、お守りを買う流れは当たり前だろう?」

そんなことも解らないなんてな。とC.C.は嘲笑った。

「神がアレだから意味が無いと言ったのはどう言い訳する気だ!」
「馬鹿かお前。こういうのはな、気持ちの問題だ。私達がルルーシュの健康を願うことに意味がある。それに、ギアスとは願いなのだろう?」

私達の願いという名のギアスは神に届き、ルルーシュが病気もせずすくすくと成長するかもしれないだろう。やらないよりはやっておいた方がいいに決まっている。
フフンと魔女の笑みを乗せスザクを見下した姿に、謀られたとスザクはうなだれた。
その時、カチャリと音がして寝室の扉が開いた。いつの間にか寝室に移動していた咲世子が、眠そうなルルーシュを腕に抱いて戻ってきたのだ。
ゴシゴシと眠そうに眼をこすっていたルルーシュは、ゼロの服を着たままのスザクを見ると、それは嬉しそうに笑った。「おかえりスザク、疲れただろう」と言うルルーシュに、それだけでスザクの落ち込んでいた気持ちは急上昇した。そしてルルーシュは咲世子を急かすと、咲世子は紙袋をルルーシュに渡した。紙袋を重そうに抱きしめたルルーシュが咲世子に抱かれた状態でスザクの前に来る。そして「スザクの分だ。ちゃんと持ち歩くんだぞ」と紙袋を差し出した。

「僕の分?」

なんだろうと思い紙袋を開くと。

「これ、お守り?」

安全祈願・無病息災・家内安全・交通安全・旅行安全。
何故か合格祈願も入っている。
ルルーシュを見ると誇らしげに「ちゃんとお前とナナリーが、健やかに過ごせるようにとお参りをしてきたからな」とキラキラとした瞳で見てきたので、スザクは感動で目を潤ませ「ルルーシュ!!」と咲世子から奪いとり抱きしめた。
こうなると思ったんだ。とつまらなそうな顔でC.C.はそんな二人を眺め、C.C.さんがあそこまでイジメなければここまでならないでしょうに。と思いながら咲世子も笑顔で二人を見つめた。

翌日。

日本で最もご利益があると言われている神社にゼロが現れ、堂々とした立ち姿で一般市民と共に参拝し、子供用のお守りも買っていたという。







神鳥14話(今書き終わってる話)ぐらいに正月があったら、という設定。
なのでジェレミアとアーニャはまだルルーシュの存在を知りません。
合格祈願はC.C.が入れました。
お前はまだまだゼロとしては落第点、不合格だという嫌味です。


Happy New Year!!